令和の時代の新しい経済政策を打ち立てなくてはならない。
平成の時代は停滞の時代。そしてデフレに苦しんだ時代であった。
残念ながらデフレから完全に脱却できていない現在、平成の時代の反省に立ち、令和の時代の新たな経済政策へと政策の方向転換をしなくてはならない。当勉強会では過去累次にわたり提言をしてきたが、今回の令和元年度補正予算、令和二年度本予算編成にあたり、改めて政権が採用すべき経済政策について提言する。
現状認識
自民党が政権を取り戻してから7年が経過しようとしている。当初の目的であったデフレからの完全脱却は、いまだ果たされていない。これは極めて憂慮すべき事態である。
本年に入ってからは、実質賃金は9月を除きすべての月でマイナスを記録。名目賃金も6月と9月を除きマイナスであり、人手不足と言われながら名目賃金が上がらない異常事態となっている。
10月の自動車販売台数は前年同月比24.9%減、首都圏マンション販売戸数は前年同月比29.5%減、大手百貨店売り上げは4社でほぼ2割減と軒並み厳しい状況にある。10月の貿易統計は輸出が前年比9.2%減、輸入が14.8%減と、いずれも2016年10月以来のマイナス幅となった。
さらに本年の台風19号のみならず、度重なる自然災害が毎年日本全国各地で甚大な被害をもたらしている。米中貿易摩擦、イギリスのEU離脱、香港問題、中東の政情不安など国際状況も不透明である。
このように災害でも疲弊し、混迷した経済状況を立て直すには、政府による大規模な財政支出による経済の下支えが不可欠である。また、経済に占める割合も小規模で先行き不透明な外需を頼るより、日本経済において圧倒的に大きなシェアを占め、確実に効果を上げることができる内需主導によりデフレ完全脱却を目指すべきである。
令和元年度補正予算および令和二年度本予算は、デフレ完全脱却に向けての決意を示す予算としなくてはならない。今後3ヶ年で確実にデフレ脱却を果たし、日本経済を成長の好循環へと変貌させる道筋を示していきたい。
提言1. デフレ完全脱却を果たすための財政運営について
[1] プライマリーバランス黒字化目標の取り扱い
プライマリーバランス黒字化目標は当面延期し、デフレ完全脱却までは未来への投資をはじめ大胆に財政支出を拡大すべき。経済再生が実現できていない現在、財政健全化を急ぐべきではない。
令和元年度は、少なくとも真水で10兆円、できれば15兆円規模の補正予算を編成し、令和二年度も同規模の特別枠を設けるべき。さらにデフレ完全脱却宣言ができるまで、同規模以上の特別枠を設けた予算編成を継続して積極的に財政支出を拡大するべき。
[2] 消費税対策
最善策は5%への減税であるが、次善の策として、
①軽減税率は8%→5%
②単価100万円以下のものは軽減税率を適用
③個人で購入するものは住宅、自動車を含めて、すべて軽減税率を適用する。
[3] 臨時特別の措置として地方自治体に特別枠予算を設定
あらゆる政策の地方負担分について、当面5ケ年程度は全額国費負担とし全面的に推進。(各種耐震化、上下水道設備更新、道路橋梁更新、治水治山対策など)
[4]国土強靭化の強力な推進
今後予想される大規模災害に対し、予算規模を明記した超長期計画を策定するとともに、この予算についてはプライマリーバランスの枠外とし、確実に実行できる体制を整えること。国費最低2兆円規模を最低10年継続する計画と予算を確保する。
大規模災害は確実に襲来する。その甚大な被害が確実に予測できるにもかかわらず、財源を理由に対策に着手しないということは、国民の生命財産よりも財政規律を重視することに他ならない。安心安全な国土を残すことは、将来の国民に大きな財産を残すことである。この投資を決して怠ってはならない。財源は国債を積極的に活用すべきである。
また、すでに発生してしまった災害からの復旧復興に関しても、プライマリーバランスの枠外として国債を発行して十分な予算を確保し、被災者を徹底的に守り支援する姿勢を明確に打ち出すべき。同時に被災自治体の地方財政に十分な支援を講ずるべき。
[5] 科学技術投資、教育投資の拡大
OECD加盟国の中でも低水準で推移する教育予算の大幅な拡充。特に国立大学法人・研究開発法人の運営費交付金の増額。研究者の処遇改善と無期雇用化。目先の成果を求めない研究開発予算の拡大。給付型奨学金の大幅拡充。
提言2. 貧困対策、社会保障の充実強化、就職氷河期世代対策および少子化対策
(社会の安定化、安定した経済成長のための基盤整備、分厚い中間層の再生)
[1] 貧困対策、社会保障の充実強化、少子化対策
貧富の差が拡大し、現役世代の貧困、高齢者の貧困が顕著になりつつある。現役世代の貧困は結婚を阻害するため少子化の原因となり、子どもの貧困の原因となる。日本社会の支え手であった高齢者の貧困は、そのまま社会不安に繋がり、若年層の消費抑制、貯蓄性向を高め、経済の悪循環を招く。若者の貧困化と不安定雇用こそ少子化問題の本丸である。ここに徹底的な投資の拡大が必要である。
・生活困窮者、児童虐待等の実態の対策および災害時に対応するための地方公務員増員・確保
・低所得層への家賃補助
・生活保護支給額の引き上げ等最低生活費の見直し・増額
・医療受診時の自己負担軽減
・貸与型奨学金減免、給付型奨学金の大幅拡充
・労働者派遣業の職種制限等の規制強化、非正規雇用の縮減・正規雇用化と所得増
・子育て手当の拡充
・長期的に最低保証年金月額20万円の検討。等
[2] 就職氷河期世代対策
就職氷河期世代を国および地方公務員として採用し十分な処遇を保証する。無期雇用はもちろん、十分な賃金を支給するべき。この場合、公務員数の純増は必須。この政策のために他の人員削減を行ってはならない。
提言3. 持続的な経済成長を促すための長期的な財政運営について、検討を開始すべき
(内部留保対策)
政府は日本経済の持続的な成長のため、国家財政がどのような役割を果たすべきか、検討を開始すべきである。
例えば、次の事項が考えられる。
資本主義は、負債の拡大によって成長する。この原則を忘れてはならない。デフレ不況が長く続いてきたため、企業は負債の拡大を恐れ、内部留保を続けている。適切な経済成長を回復するためにも、企業の貯蓄率にも注目し、企業の貯蓄率が適度な「マイナス」となるまで、つまり企業の各種支出のための資金需要が十分回復するまでは積極的に政府が負債を拡大すべきである。企業貯蓄率が各種支出のために順調に負債を拡大する局面に移行した後には、政府は負債を拡大することをやめればよい。
デフレ完全脱却までは、十分な国民所得を創出するために、また経済成長を促すためにも、政府は負債の拡大を躊躇すべきではない。
具体的な事業の例
【科学技術投資拡大】
- ILC整備
- 量子コンピュータ開発投資
- 国立大学法人・研究開発法人の運営費交付金増額(できるだけ早期に15年前の水準に回復)
- 政府研究費負担割合を諸外国並み(2割弱→3割程度)を目指して政府研究開発投資額を増額(対GDP比1%の早期達成)
新元号における「恩賜等特別枠」
- 奨学金返済の減免
- 無給制下の司法修習生(いわゆる「谷間世代」)貸与金の減免
- 年金基金解散時の事業主負担額の減免等
均衡ある国土発展のための全国の新幹線整備の加速(現在の予算にプラスして1000億円)
- 北陸新幹線の大阪接続・関空接続の事業決定
- 北海道新幹線・北陸新幹線の整備加速
- 国土軸形成を見据えた全国の基本計画の整備計画化
- 関空新幹線を想定した新大阪駅整備
生産性向上投資の加速
- 政府及び民間の老朽化した基幹系情報システムの刷新
- IT投資・地方移転・人材投資および賃上げを促す税制・補助金拡大
- 人手不足対応の生産性向上投資、技術開発支援(自動運転の早期実用化など)
- 各種投資減税の2021年以降への延長・拡大
人材育成投資
- 農業、漁業、林業、建設、造船などをはじめ各業種の日本人技術者・技能労務者の集中育成期間を設定し労務単価・賃金の大幅引き上げ(人手不足を踏まえた処遇改善)
- 若者からいわゆる「就職氷河期世代」までを含めた幅広い世代の人材育成、賃金引上げ及び雇用安定化
賃上げ促進
- 公定価格による労務単価の引き上げ(建設・運輸・保育・介護等)
- 賃上げ促進税制の充実
全国の高速道路整備の加速
- ミッシングリンク整備
- 暫定二車線高速道路の車線拡幅
- 新東名・新名神の6車線化
- 首都高速日本橋地下化
国土強靱化投資の加速
- 総被害2000兆円に及ぶ南海トラフ地震、首都直下地震、千島海溝地震等の諸対策(電柱地中化・橋梁強化・防潮堤整備等)
- 全国の上下水道、電気、ガス、道路・橋梁、河川管理施設(水門等)、港湾、公営住宅、学校、農業水利施設など非常時に耐えうるライフライン更新、耐震化、長寿命化のための予算の確保(全国自治体に別枠で予算確保、民間事業者補助金・税制優遇等)
- 全国の豪雨対策の対策計画の策定および長期予算確保
- 国土強靭化のための民間投資促進税制
- 巨大高潮のための治水投資
- 山林整備のための長期計画策定、予算の確保
- 港湾整備(災害対策および深度)
- 全国の老朽化した「ハコモノ」の整理事業(更新、廃棄)
地方創生
- 地方交付税の増額、特に公務員の増員および処遇改善を促し官製ワーキングプアを撲滅
- 各事業にかかる賃金の底上げ(東京並みの賃金確保)
- 道路及び鉄道・バス等公共交通網の再構築等の交通インフラ整備
- 地方都市再生プロジェクト
- 地方移転・移住の加速(補助金・優遇税制等)
- 省力化・生産性向上設備投資支援
- 学校給食費の支援拡大
新エネルギー投資
- ダム再開発
- ガスパイプライン整備補助金
中小零細企業消費税対策
- 免税事業者の拡大(現行1,000万円→3,000万円へ)
- 課税事業者の判定基準となる課税売上高を「売上高」から「粗利」へ変更
- 限界控除制度の復活
教育投資
- 高等教育無償化拡大(給付型奨学金の大幅な拡充等)
- 乳幼児期の子供たちの心身の発達や認知の特性を注意深く把握し、それに応じた育児や学校における指導にフィードバックする仕組みの構築(就学前に心理検査などが受けられる子育て支援。就学前二回)
- 児童一人一台PCを標準とする等学校IT化の一括交付金(別枠予算で確保)・地域みらい留学事業(高校段階で親元を離れて地方へ国内留学50万人)・文理分断を乗り越えSTEAM立国創造事業(私立大学の分野の構成比の組み換え)
- 地域の核としての高校で社会的に自立する地域人育成事業(高校普通科を地域化へ転換) 等
防衛装備投資
- 防衛装備の拡充及び自衛隊員の処遇改善