2017/06/21
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2017年6月 デフレ不況から完全に脱却し、日本経済を成長路線に乗せると同時に、財政再建を果たすために必要な財政政策に関する提言

【概要】1.現状認識

アベノミクスは一定の成功を収めている。しかし、2014 年増税で、内需大国である日本は今、再デフレ化の危機に直面している。このままでは、日本の後進国化と財政悪化の同時進行は必定である。そして残念ながら、この状況からの脱却は「PB 黒字化目標」がある限り不可能である。

【概要】2.「PB 目標撤廃」を視野に入れた「財政出動による財政再建」を

したがって、この状況打開にはPB 目標撤廃が重大な意味を持つ。それを視野に収めつつ、本年の「骨太」で改めて強調された財政戦略の国際標準でもある「債務対GDP 比」の持続性に配慮し、「経済成長に基づく財政再建」を目指す。とりわけデフレの今必要なのは「財政出動による財政再建」である。

【概要】3.消費税増税の「凍結」を視野に入れた、消費税のあり方の抜本的見直しを

現在のデフレ脱却道半ばの状況を踏まえ、デフレ完全脱却までは(例えば、「教育国債」の可能性も見据えた多様な)国債の積極活用が必須である。この点を踏まえ、あるべき社会保障等の財源確保のために求められる「税収増」を達成するために、消費税の「増税凍結」を視野に収めつつ、その在り方を抜本に的に見直す。

【概要】4.600 兆円経済実現を確実にするための「当初予算3-4%ずつの拡充」を、PB 目標に代わる新たなフロー目標とすべし

600 兆円経済を実現するために求められている3-4%の名目成長率と歩調を合わせて、「当初予算」を3-4%ずつ拡張することをPB 目標に代わる新たな「予算の上限制約」、すなわちフロー目標とする。ただし、3-4%程度の名目成長率を確保するためにも、デフレ完全脱却までは、国債に基づく大胆な補正予算も活用していくと同時に、歳出改革を継続しワイズスペンディングをさらに拡充する。

【概要】5.デフレ脱却後の「金利上昇」に対する懸念払拭のための「出口戦略」採用を

デフレ脱却後の金利上昇局面に関連して、「政府の利払い費の増大」を懸念する声が一部に存在する。この懸念を払拭するために、政府判断の下、日銀保有国債の満期時に政府が発行している「1年物短期割引債」の発行額を拡大し、より長期化し、複数回の借り換えを行う可能性を探る。同時に、出口戦略の一環として、金利上昇局面における日銀当座預金の枠の適切な大きさや、その適切な付利水準についての議論を促す。

最後に、以上の提案は、常に積極財政を主張するものでなく、景気後退期には財政拡大をするべきであり、景気過熱期には緊縮財政をするべきであるという、極めて当然の施策を実行することを提案しているに過ぎない。したがって、デフレ脱却後は、上記の金融政策面での出口戦略を図ると同時に、国債を主体とした積極財政ではなく税収を主体とした「中立的財政運用」を図ることを提案する。

1. 現状認識

(1)成功を収めたアベノミクス。しかし、2014年増税で再度デフレ化の危機

安倍内閣誕生以来、名目成長率が平均で2%以上も上昇するなど、アベノミクスは「静かな、しかし着実な成功」を収めている。しかし、2014年の消費増税によって、政府の「プライマリーバランス」を急激に改善して以降、消費、投資、賃金は大きく下落し、今日に至るまで長期低迷の様相を呈している。そしてついに本年1-3月期には、安倍内閣始まって以来はじめて、名目成長率もデフレ―タも同時にマイナスを記録し、デフレ―タの減少率(つまり物価低下率)は安倍内閣誕生以降「最悪」の水準となった。

(2)デフレこそ、日本の後進国化と、財政悪化の原因

世界が年率3.5%もの水準で成長し続けている中、日本だけが今日のように成長できずにいれば、日本の相対的国力は著しく低迷することは必至だ。実際、90年代には17%以上もあった日本の世界のトータルGDPに占める割合が、今日では5%代まで凋落。この傾向が後20年も続けば、そのシェアは2%程度にまで激しく下落する見通しだ。そうなれば、我が国は先進国ではなく「後進国」といわざるを得ない事態となろう。

しかも、この長期低迷によって赤字国債の発行額は一気に増大。デフレ化する前から一気に20兆円規模で赤字国債発行額が拡大してしまった。つまり、財政悪化の原因は、偏に「デフレ」なのである。

(3)「PB改善」が、デフレを導き、持続させている

日本がこうしたデフレに陥ったのは、98年。その背後には、97年の消費増税があった。しばしば、この時のデフレ化は「アジア通貨危機」によるものとも言われるが、その危機が直撃したアジア諸国はもう既にデフレではない。だからデフレ化の原因は、消費増税以外には考えられない。

消費増税が日本のデフレ化を導いたのは、消費増税が「政府負債」つまり「PB赤字」を「急激に縮小」させたためだ。そもそも成長の源は、誰かの「負債の拡大」。なぜなら、負債とはすなわち「資金需要」を意味するのであり、資金需要が拡大することではじめて、実態市場にマネーが流通することになるからだ。

それにも関わらず、バブル崩壊によって民間が負債拡大が困難であった中、政府までもが増税によって負債の縮小に勤しめば、官民ともに負債=資金需要が縮小し、結果として、経済は低迷せざるを得なくなるのだ。

なお、日本のGDPに対する内需の割合は圧倒的に高く、その割合は99%前後であり(GDPに占める純貿易額は、おおよそ1%程度に過ぎない)、しかも、世界経済の不確実性が高まっている今、官民の資金需要で構成される「内需」が冷え込めば、経済は必然的にトータルとして低迷せざるを得ない。

そして、2014年増税でもまた、政府の負債(PB赤字)=資金需要が、10兆円規模で急激に縮小したことで、「内需」が主体の我が国経済において、アベノミクスの成功が阻まれつつあるのである。

(4)政府の資金需要を縮小させたのは、PB黒字化という財政戦略

ではなぜ、600兆円経済を目指すアベノミクスが展開されている中で、政府の資金需要がここまで冷え込んでしまっているのかといえば、それは偏に、「2020年PB黒字化目標」という目標が、2010年に菅直人政権によって閣議決定され、その決定が今日もなお掲げられ続けているからである。

この「PB目標」が掲げられている限り、PB赤字という「政府の資金需要」は拡大するどころか「縮減」され、デフレは持続し、国民生活が貧窮化すると同時に、財政も悪化していくのである。財政を改善するために導入されたPB目標が、かえって財政を悪化させている――という誠に愚かな状況に置かれているのが、現在の日本経済の実情なのである。

2. 「PB目標撤廃」を視野に入れた「財政出動による財政再建」を

上記の現状認識を踏まえるなら、「成長なくして財政再建なし」を基本戦略に掲げる安倍内閣は、2020年PB黒字化目標を解除することが、その基本戦略を実際に実現する上で重大な意味を持つ。

すなわち、少なくとも民間の資金需要が十分に回復し、内部留保の積み上げとは正反対に民間が負債を拡大させていく局面に至るまで、つまり、デフレ完全脱却が実現するまでの間は、そのデフレ完全脱却を導くために必要不可欠な「政府の資金需要」の創出を促し得る「財政目標」を、改めて策定することが必要である。

これまでのPBを基軸とした目標から改変する「新しい財政目標」の中心に据えられるべきものは、今回の骨太の方針でも改めて重視された「債務対GDP比の安定化」をおいて他にない。そもそも、「債務対GDP比の安定化」は、これまでのG7やG20で繰り返し、財政規律の最終目標とすべきものとして提示され続けてきた「世界標準」の規律である。

しかも、PB黒字化目標が我が国で導入された理論的根拠も、債務対GDP比を改善する「手段」となる、というものだった。しかし、アベノミクスの異次元緩和で金利が低く抑えられている今日、PB黒字化は、債務対GDP比を安定化するために「無用」となっているのが実情なのである。

こうした点から、内需がGDPのほとんど全て(99%)を占めている我が国は、今、「債務対GDP比の安定化」を財政規律の根幹に据え、その上で、政府支出の拡大を通して内需拡大を図り、GDPを拡大させ、その結果として債務対GDP比が着実に改善していく状況を創出することが必要なのである。これこそ、「経済再生と財政再建の二兎を追う」ための唯一の現実的アプローチである。

すなわち、我が国がなすべきことは、決して「緊縮に基づく財政再建」ではなく、「経済成長に基づく財政再建」なのである。そして、デフレの今、経済成長を導くためには財政出動が必要不可欠であることを踏まえるのなら、求められているのは「財政出動による財政再建」なのである。

3. 消費税増税の「凍結」を視野に入れた、消費税のあり方の抜本的見直しを

我が国がこれまで、緊縮主義のPB改善において検討され、実施されてきたのが「消費増税」であった。しかし、消費増税は、消費を冷え込ませることを起点として、賃金、投資を低迷させ、内需を冷え込ませ、GDP成長率を低迷させ、挙げ句に税収それ自身を縮小させ、事後的なPB悪化をもたらすという最悪の帰結をもたらしてきた。事実、97年増税は翌年にはすぐに税収減を導いた。

14年増税も、結局は17年度の税収が前年割れするという事態を導いている。つまり、税率を上げる「増税」は、必ずしも税収を拡大させるとは限らないのである。

この実情を踏まえれば、10%への消費増税を凍結することはもちろんのこと、5%への減税も視野に入れた、消費税のあり方についての徹底的な議論が必要不可欠である。

なぜなら、10%増税時に議論された「なすべき社会保障」等の財源を確保するために求められているのは、10%という税率それ自身ではなく「税収増」だからである。そしてデフレ状況下では、「税収増」のために求められているのは5%への減税も視野にいれた「景気拡大策」に他ならないのである。

なお、消費税は常に、社会保障をはじめとした政府支出の「財源」と見なされてきたが、財源は「税収」以外にも「国債」が存在することは論を待たない。国債を財源と見なすべきでないという議論は、偏に「PB黒字化」目標が堅持されている場合に限られる。逆にいうなら、PB黒字化目標の撤廃はすなわち、「国債」を財源と見なすことを許容するということである。

国債を財源と見なすということはつまり、将来の「成長」を「財源」と見なすということである。こうした態度は「デフレ状況下」では、許容される。なぜなら、政府がデフレ脱却を国民に約束しているということは、将来経済を成長させ、より多くの税収を将来得ることを約束していることになるからである。

つまり、デフレ脱却までの間は、インフラ投資のための「建設国債」のみならず、教育のための「教育国債」、さらにはそれ以外の支出項目のための「特例国債」による資金を財源と見なすことが許容されるのである。

このような今日の「デフレ」状況を踏まえ、少なくともデフレ脱却までは国債を積極的に活用することを前提としながら、「税収増」をもたらす消費税のあり方について、「増税凍結」はもちろんのこと、「減税」の可能性も視野に納めつつ包括的に議論することが必要なのである。

4. 600兆円経済実現を確実にするための「当初予算3-4%ずつの拡充」を、PB目標に代わる新たなフロー目標とすべし

G7をはじめとした先進諸外国は、上述の債務対GDP比の安定化という「ストック目標」に加えて、構造的財政収支などについての「フロー目標」を掲げている。我が国は、そのフロー目標について、PB黒字化目標を掲げてきたのだが、これが我が国のデフレを継続させ、財政を悪化させていることは先に指摘した通りだ。

しかし、上記の債務対GDP比の安定化というストック目標を軸としながらも、毎年の予算策定にあたってPB黒字化に変わる新しい「フロー目標」を設定することも考えられる。

この点については、政府が掲げる600兆円経済の実現を阻むものであってはならない。この点を勘案したとき、600兆円経済を実現するために求められている、3-4%の名目成長率と歩調を合わせて、「当初予算」を3-4%ずつ、つまり、毎年2~3兆円ずつの拡張を「上限」とする、というフロー目標を掲げることが得策である。

なお、デフレ脱却までの間は、GDPの四分の三を占める民間の需要の成長率が3-4%以下の水準となると見込まれるため、その状況下では補正予算で政府支出を拡大調整し、全体の名目成長率が3-4%以上となるように調整することが必要である。なお、それだけの名目成長を確保するためには、政府と民間を合わせたトータルの(債務と貯蓄の)「収支」、すなわち「ネットの資金需要」がGDPの5%程度となる状態を持続することが必要である。

また、こうした政府支出の「量」の議論に加えて、その内実を改善する「質」の議論が必要であることは論を待たない。ついては、こうした「量」の議論に加えて、政府がこれまで進めてきた歳出改革をさらに継続し、ワイズスペンディングをさらに拡充していくこともまた必要である。

5. デフレ脱却後の「金利上昇」に対する懸念払拭のための「出口戦略」採用を

以上の取り組みが功を奏せば、デフレ脱却が叶うこととなる。この時にどのような「出口戦略」を採用するかが、その後の持続的な成長と財政再建を考えるうえで必要不可欠である。

そもそもデフレが脱却できれば、民需が回復し、民間部門の過剰貯蓄(内部留保)は縮小し、民間部門のトータル収支が「赤字化」していく。そうなれば、政府のPB赤字を拡大せずとも「ネットの資金需要」が十分確保されることから、名目成長を一定以上に確保することを通して債務対GDP比を縮小させながら、政府のPB赤字が着実に縮小していくこととなる。そうなった場合、内需、物価、名目成長率がいずれも上昇していくと同時に、金利の上昇圧力がかかることとなる。

この時、「大量の国債を発行した政府の利払い費の増大」を懸念する声が一部に存在する。しかし、この懸念は、政府による発行国債内容を調整することで払拭できる。現在の法制度において、日銀保有国債の満期が来た時には、政府は借換のための国債を発行することが可能となっており、実際に、この制度に乗っ取って、借り換えが毎年行われている。

現状においては、「1年物短期割引債」が、この借り換えのために発行されているが、これを一年よりもより長い「長期割引債」に置換していく、ならびに、この借り換えを複数回行っていくことで、上記の懸念は払拭可能である。なぜなら、日銀保有国債が償還期限が来た時に「長期割引債」と交換したり、借り換えを複数回実施すれば、「利払い期限を」延期した年次分だけ、政府(財務省)が日銀に支払う利払い費が圧縮されることになるからである。

こうした金融政策面における出口戦略を実現するためにも、日銀とも協調しつつ、政府判断の下、日銀保有国債が満期を迎えたときに政府・財務省が発行している「1年物短期割引債」を、第一に長期化し、第二に複数回の借り換えを行うこととし、第三にその総額を拡充していく、という対応が必要である。

なお、以上に加えて出口戦略の一環として、金利上昇局面における日銀当座預金の枠の適切な大きさや、その適切な付利水準についての議論を促すことも重要である。

最後に、我々は、如何なる状況においても積極財政を図るべきと主張しているのでは決してない、という点を強調したい。我々は、景気後退期には財政拡大をするべきであり、景気過熱期には緊縮財政をするべきであるという、極めて当然の施策を実行することを提案しているに過ぎない。したがって、デフレ脱却後には、国債発行を主体とした積極財政から、税収を主体とした「中立的」な財政運用へと転換する、という「出口戦略」を財政政策において採用すべきだと、主張するものである。

もちろん、その時に過剰な緊縮財政を図れば、再びデフレ化する懸念が生ずる。こうした諸点を踏まえつつ、デフレ脱却後においては、積極的でも消極的でも無い「中立的財政運用」を通して、安定的な財政運営と持続的な経済成長を実現していくことが不可欠なのである

以上

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